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神戸地方裁判所 平成7年(行ウ)46号 判決 1999年3月15日

兵庫県芦屋市朝日ケ丘町一-二七-四〇六

原告

長谷川登江子

右訴訟代理人弁護士

長谷部成仁

兵庫県芦屋市公光町六-二

被告

芦屋税務署長 瀬尾真澄

右指定代理人

草野功一

長田義博

藤田毅

水垣修一

別府哲郎

間佐古佳紀

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対し平成二年一〇月二四日付けでした納付すべき相続税の本税を金二三八〇万八二〇〇円とする更正処分は無効であることを確認する。

第二事案の概要

一  前提となる事実(証拠を掲げた部分以外は、当事者間に明らかに争いがない。)

1  原告、竹村永一郎、布垣明子、小林公江及び西夫佐子の五名(以下、右五名を総称して「本件相続人ら」という。)は亡竹村満年(以下「亡満年」という。)の子であり、亡満年は、昭和五七年一月二三日に死亡した。

2  本件相続人らは被告に対し、相続税法(以下「法」という。)五五条本文に基づき、各相続人が相続により法定相続分に従って亡満年の財産を取得したものとして、共同して相続税の申告書を提出期限である昭和五七年七月二三日に提出した。

竹村永一郎を除く本件相続人らは被告に対し、同年一二月一六日、株式会社立売堀製作所からの死亡退職手当金の支給額が確定したことを主な理由として修正申告書を提出した。

原告は被告に対し、昭和五八年七月四日、竹村株式会社からの死亡退職手当金の支給額が確定したことを主な理由として修正申告書を提出した。

本件相続人らは被告に対し、同年一二月一四日、株式会社立売堀製作所大阪工場からの死亡退職手当金の支給額が確定したことを主な理由として修正申告書を提出した。

右修正申告に係る課税価格の合計額は六億九一九七万五〇〇〇円、相続税の総額は二億八二三三万六二〇〇円であり、原告についての課税価格は一億三八三九万五〇〇〇円、納付税額は五四二九万五四〇〇円となった。(甲一)

原告は、延納の手続を経て右納付税額を平成元年七月三一日までに完納した。

3  亡満年の相続開始時の財産から任意の協議により分割された一部の財産を除く遺産は、本件相続人らの間で、神戸家庭裁判所の昭和六三年八月三一日付けの審判(以下「本件審判」という。)により分割され、右審判は平成元年六月二七日に大阪高等裁判所の決定により確定した。(甲二、弁論の全趣旨)

4  布垣明子、小林公江及び西夫佐子(以下、右三名を総称して「布垣ら三名」という。)は被告に対し、平成元年一〇月二七日、本件審判による遺産分割の結果、従前の課税価格及び相続税額が過大になったとして、法三二条一号に基づく更正の請求を行った。

5  被告は、本件審判による遺産分割の結果本件相続人らがそれぞれ取得することが確定した相続財産について、相続税財産評価に関する基本通達(昭和三九年四月二五日付け直資五六・直審(資)一七国税庁長官通達。ただし、昭和五六年九月二九日付け直評一八による改正後のもの。以下「基本通達」という。)に従い、不動産の評価に関しては大阪国税局長が定めた相続税財産評価基準により路線価等を用いるなどして、相続開始時の時価を算定して評価し、相続税の課税価格の合計額を六億三八二〇万五〇〇〇円、相続税の総額を二億五二七六万二七〇〇円と算出した。そして、布垣ら三名については、従前の課税価格及び相続税額が過大になったものと認め、被告は右三名に対し、課税価格及び相続税額を減額する更正処分を行った。

他方、被告は、本件審判による遺産分割の結果、相続財産中、原告が取得した財産について基本通達に従って相続開始時の時価を算定したところ、課税価格が一億九七四八万九〇〇〇円、相続税の総額に対する按分割合が〇・三〇九、納付税額が七八一〇万三六〇〇円になったとして、平成二年一〇月二四日、原告に対し、納付すべき相続税の本税を二三八〇万八二〇〇円(右納付税額から既に納付された五四二九万五四〇〇円を差し引いた金額)とする更正処分(以下「本件更正」という。)をした。(甲一)

6  原告は被告に対し、平成二年一二月二一日付けで本件更正について異議申立てを行い、被告は原告に対し、平成三年六月二八日付けで右申立てを棄却する旨の異議決定をした。(甲一六)

二  当事者の主張

1  原告の主張

(一) 本件更正には、憲法一四条違反及び租税平等主義違反並びに法五五条ただし書き、三二条一号、三五条三項及び基本通達の解釈、適用を誤った違法があり無効である。

(1)<1> 本件では、不動産価格が右肩上がりに上昇し、路線価と実勢価格に相当な乖離がみられた状況下で、家庭裁判所において亡満年の遺産の分割時における実勢価格を鑑定等により算定し、それに基づいて本件相続人らの相続取得する財産の価額(実勢価格)の割合が右相続人らの法定相続分の割合に等しくなるように審判による遺産分割を行ったのであるから、相続税額の算定にあたっては共同相続人間の公平に配慮し、相続開始時の相続財産の時価に基づいて課税価格を算定し、それによって計算された相続税の総額(被告の算定した相続税の総額は争わない。)を、遺産分割時の鑑定価格に基づく実勢価格で評価、計算された各相続人の取得財産の価格の割合で按分して、各相続人の相続税額とすべきである。

<2> 相続により取得した財産の時価は原則として基本通達に従って算定されるものであるが、不動産の路線価と実勢価格に懸隔があり、家庭裁判所において遺産分割時における実勢価格を鑑定等により算定し、それに基づいて審判による遺産分割が行われた場合には、被告としてもこれを尊重し、基本通達6に規定する「この通達の定めによって評価することが著しく不適当な場合」にあたると解すべきである。

この場合、遺産分割時における相続財産の実勢価格に基づいて各相続人についての課税価格を算定し、それによって算出された相続税の総額を各相続人の課税価格の割合で按分した金額を各相続人の相続税額とするのが相当である。

<3> また、法五五条ただし書き、三二条一号に基づく課税の再調整は、相続人間で法定相続分と異なる割合で遺産分割がなされ、各相続人が相続によって受けた利益と、それによって課される相続税額の間に不公平が生じた場合に、これを調整し、共同相続人間の課税の公平を図る制度であるところ、本件審判においては法定相続分に従って遺産分割がなされたのであるから、課税の再調整に関する規定が適用される余地はない。

(2) しかるに、被告は、本件審判において各相続人の取得する財産について実勢価格による評価が行われた事実を無視し、法三五条三項一号、三二条一号及び五五条ただし書き及び基本通達の解釈、適用を誤り、憲法一四条及び租税平等主義にも違反して、土地等を相続した相続人に対しては路線価を時価として財産評価を行い、さらに、遺産分割が本件相続人らの法定相続分の割合に従って行われたにもかかわらず課税の再調整を行って本件更正をしたために、原告と他の相続人との間で相続税額に格段の差違を生じ、原告に対してのみ過重な税負担を強いる結果となった。

(二) 布垣ら三名による更正の請求は民法一条、九〇条に違反するから、これに基づく被告の右三名に対する各更正は違法、無効であり、右各更正に基づいて行われた本件更正も違法、無効である。

布垣ら三名は、本件審判による遺産分割で法定相続分の割合によって公平な財産の分配を受けたにもかかわらず、取得した相続財産中の不動産の実勢価格と路線価の乖離が甚だしいことを奇貨として、自己の相続税額を軽減させ、原告の相続税額を増額する更正の請求を行ったものであるから、右三名による平成元年一〇月二七日付けの更正の請求は、共同相続人間の信義に反し更正請求権の濫用に当たるとともに、家庭裁判所の審判制度という公の秩序にも反する。

(三) よって、本件更正には重大かつ明白な瑕疵が存する。

2  被告の主張

(一)(1) 憲法一四条及び租税平等主義違反について

相続税は、相続人等が被相続人から相続等によって取得した財産について、法の規定及び基本通達に従い、相続開始時の時価を算定し、相続税の課税価格を計算して相続税額が算出されるものであり、右の取扱いにおいては、全ての納税者の税負担の実質的公平が図られるとともに相続等の当事者間の平等も図られている。

したがって、本件更正は、法の該当規定及び基本通達に従ってなされた適法なものであり、憲法一四条及び租税平等主義違反はない。

(2) 課税の再調整について

本件相続人らが本件審判による遺産分割の結果取得することが確定した財産について、相続開始時の時価を基本通達に従って評価して各相続人の課税価格を算定し、課税価格に基づいて相続税額の総額を計算し、これを各相続人の課税価格の割合に応じて按分すると、右財産に係る課税価格及び相続税額が法定相続分に従って計算された従前の課税価格及び相続税額と異なることとなり、布垣ら三名については、従前の課税価格及び相続税額が遺産分割の結果取得することが確定した財産に係る課税価格及び相続税額より過大となり、原告については、従前の課税価格及び相続税額が遺産分割の結果取得することが確定した財産に係る課税価格及び相続税額に比して不足を生じることとなった。

したがって、布垣ら三名による更正の請求は法三二条一号の要件を満たすものであり、右三名の更正の請求に基づいてなされた更正及びこれに伴ってなされた原告に対する本件更正は適法である。

原告は、本件については基本通達6に規定する「通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる」場合にあたると主張するが、右の定めは相続開始時を基準として評価することを前提に、右通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる場合を指すのであって、相続開始時の評価によらずに遺産分割時の評価によることを想定するものではない。

(二) 右のとおり、布垣ら三名による更正の請求は、法三二条一号に適合するものであって、民法一条及び九〇条に違反するものではない。

(三) よって、本件更正に何ら違法、不当な点はなく重大かつ明白な瑕疵は存在しない。

第三当裁判所の判断

一1  相続税額の算定方法及び相続財産の評価方法について

(一) 法一一条は、相続税の総額を相続税の計算の基礎とすることを明らかにし、法一六条は、相続税の総額は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得したすべての者に係る相続税の課税価格に相当する金額の合計額からその遺産に係る基礎控除額を控除した金額を、法一五条二項に規定する相続人の数に応じた相続人が法定相続分に応じて取得したものとした場合における各取得金額に超過累進税率を適用して算出した金額の合計額として計算するものとし、法一七条は、各相続人の相続税額は、右の相続税の総額に、相続又は遺贈により財産を取得した者に係る相続税の課税価格が当該財産を取得したすべての者に係る課税価格の合計額のうちに占める割合を乗じて算出すると規定する。すなわち、民法上の法定相続人が法定相続分に従って相続財産を分割取得したものとして相続税の総額を計算し、この相続税の総額を実際に相続財産を取得した者が、その取得分に応じて相続税として納付することとなる(法定相続分課税方式による遺産取得税方式)。

(二) また、法一一条の二第一項は「相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条第一号の規定に該当する者である場合においては、その者については、当該相続又は遺贈により取得した財産の価額の合計額をもって、相続税の課税価格とする。」と規定し、法二二条は「この章で特別の定のあるものを除く外、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による。」と規定し、民法上、相続開始時に権利義務が承継されるから、各相続人が相続により取得した財産の価額の合計額が相続税の課税価格となり、相続により取得した財産の価額は、原則として相続開始時の時価により算定される。

そして、民法九〇九条本文が「遺産の分割は、相続開始の時にさかのぼってその効力を生ずる。」と規定するところ、共同相続人らが遺産分割をして遺産を相続した場合や、家庭裁判所において遺産を遺産分割時の実勢価格によって評価し、それに基づいて審判による遺産分割を行った場合について、相続税法上何ら例外規定が設けられていないから、法は右の場合についても、原則に従い、各相続人が遺産分割により相続した財産の相続開始時における時価を相続税の課税価格とする趣旨であると解すべきである。

(三) さらに、法二二条にいう「当該財産の取得の時における時価」とは、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われた場合に通常成立する価額をいうものと解されるところ、対象財産の客観的交換価格は必ずしも一義的に確定されるものではなく、これを個別に評価するとすれば、評価方法等により異なる評価額が生じたり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあるから、基本通達によりあらかじめ定められた評価方法によって画一的に評価を行うことが、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であり、租税負担の実質的公平を実現することができるから租税平等主義にもかなうものである。

(四) 以上によれば、各相続人の相続税は、相続税の総額を各相続人が現実に取得した相続財産の課税価格に応じて課税され、右課税価格は、相続開始時の時価を基本通達に従って評価することにより算定されることになる。

2(一)  そこで、本件について検討する。

前提となる事実(前記第二の一)によれば、本件審判による遺産分割後、布垣ら三名から被告に対し、本件審判が確定したことにより遺産分割前に確定した相続税額が過大となったとして更正の請求があった。右更正の請求は、本件相続人らが遺産分割の結果相続取得することが確定した財産について、相続開始時における時価を基本通達に従って算定して各相続人の課税価格を求め、右課税価格に基づいて相続税額の総額を算出し、右相続税の総額を、課税価格の合計額に占める各相続人が取得した財産についての課税価格の割合に応じて按分して各相続人の相続税額を算出した結果によるものであった。被告は、布垣ら三名の従前の課税価格及び相続税額が過大となったものと認め、右三名に対し、課税価格及び相続税額を減額する更正をした。他方、被告は、右更正に伴い、原告が本件審判による遺産分割の結果相続取得することが確定した相続財産についての課税価格(一億九七四八万九〇〇〇円)及び納付すべき相続税額(七八一〇万三六〇〇円)が、遺産分割前に法定相続分の割合に従って相続財産を取得したものとして計算された課税価格(一億三八三九万五〇〇〇円)及び納付すべき相続税額(五四二九万五四〇〇円)と異なることとなり、遺産分割前に確定した相続税額では二三八〇万八二〇〇円の不足を生じるが、原告から修正申告書の提出がなかったので、原告に対し、布垣ら三名による更正の請求がなされた日から一年を経過する以前に本件更正を行ったものである。

そうすると、本件相続人らの相続税額の算定方法は法二二条、基本通達に従ったものであり、本件更正は法三五条三項一号、三二条一号、五五条ただし書きの要件に適合するものであるというべきである。

(二)(1)  原告は、本件審判の結果、法定相続分に従って遺産分割が行われたのに、各相続人間で相続税を均分に負担しないのは不企平であって、本件の場合、相続開始時の課税価格を基本通達に従って評価して相続税の総額を計算し、右相続税の総額を、各相続人が遺産分割の結果相続取得した財産の遺産分割時の時価(実勢価格)の割合で按分した金額を各相続人の相続税額とするべきである旨の主張をする(前記第二の二の1(一)(1)<1>)。

しかし、遺産分割は、諸般の事情を考慮して包括的に承継される財産を適正に分割することを目的とするものであって、相続税の課税対象とならない特別利益を相続分として考慮した上、分割時に存する遺産をその現状、分割時の時価等も考慮して分割するものであるのに対し、各相続人に対する相続税は、各相続人が現実に取得した相続財産の課税価格に応じて課税するものであり、右課税価格は相続開始時の時価によって評価される。したがって、遺産分割制度と相続税制の相違から、遺産分割が家庭裁判所の審判により法定相続分に従ってなされたとしても、対象となった財産の範囲、財産の評価時点及び評価方法等の相違によって、各相続人間の相続税額が法定相続分どおりになるとは限らず、原告が主張するような不均衡は法の予定するものであるというべきである。

また、原告の右主張は、相続税の総額を課税価格の割合に応じて按分した金額を各相続人の相続税額とする旨の法一七条の文理に明らかに反し、採用することができないものである。

(2) 一方、原告は、不動産の路線価と実勢価格に懸隔があり、家庭裁判所の審判において遺産分割時を基準とした実勢価格に基づいて遺産を分割した場合には、相続財産を基本通達によって評価することが著しく不適当であり、遺産分割時における遺産の時価(実勢価格)に基づいて各相続人が遺産分割の結果相続取得した財産について課税価格を算定し、それによって算出された相続税の総額を課税価格の割合(本件では各相続人の法定相続分の割合)で配分すべきである旨の主張をしている(前記第二の二の1(一)(1)<2>)

しかし、右主張は、取得財産の遺産分割時の価格を基準に相続税を課すことを認めるもので、法一一条の二第一項及び二二条の文理並びに法定相続分課税法式による遺産取得税方式を採用し相続開始時を基準として課税を行うものとした法の趣旨に反するから、容認することができない。

(3) さらに、原告は、課税の再調整の制度は共同相続人間の課税の公平を図るものであるから、法定相続分に従って遺産分割が行われた本件では右制度が適用される余地はない旨の主張をする(前記第二の二の1(一)(1)<3>)。

しかし、本件更正が法三五条三項一号、三二条一号及び五五条ただし書きの要件を満たすものであることは前記2(一)のとおりであり、課税の再調整は、法五五条本文が長期間にわたって遺産分割が行われないことにより相続税の納税義務を免れる不都合を防止するため未分割の遺産について民法の規定による相続分等の割合に従って財産を取得したものとして課税価格を計算すべき旨を規定したのを受けて、分割後に、遺産分割の結果、真実取得した相続財産に対する課税を行うための法的措置を講じる趣旨の制度であるから、これと前提を異にする右主張は失当である。

二  次に、原告は、布垣ら三名が遺産分割後に更正の請求を行ったことは、民法一条、九〇条に違反し、右三名に対する更正も違法、無効であるから、右更正の請求及び更正に基づく本件更正には重大かつ明白な瑕疵がある旨の主張をする。

しかし、法三二条一号は、法が遺産取得税方式を採用することから遺産分割により各相続人が現実に取得した財産に対して相続税が課されるのが原則であるところ、前記のとおり、法五五条本文において遺産の全部又は一部が未分割の場合に当該未分割の財産について相続分の割合により取得したものとしてその課税価格を計算するものとされているため、未分割の遺産につき、いったん右のような計算で税額が確定した後、遺産分割の結果、既に確定した相続税額が過大となった者について特別に更正の請求を行うことを認める規定である。

本件のように、家庭裁判所の審判で各相続人が取得する財産の遺産分割時の実勢価格が法定相続分に応じたものとなるように遺産分割された場合に、当初、法定相続分の割合に従って課税価格が計算されて相続税額が確定したが、遺産分割により取得した財産に係る課税価格が当初の課税価格と異なることとなり、当初の課税価格及び相続税額が過大となったときに更正の請求ができることは、右規定の趣旨からして当然であって、布垣ら三名の更正請求が信義則違反、権利の濫用ないし公序良俗違反にあたるということはできない。

三  行政処分を無効とすべき「重大かつ明白な瑕疵」とは、当該処分の要件の存在を肯定する処分庁の認定に重大、明白な瑕疵がある場合を指すものと解されるところ、以上によれば、本件更正について処分の要件の存在を肯定する被告の認定に重大、明白な瑕疵は認められないから、原告の主張は、いずれも採用することができない。

第四結論

よって、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 將積良子 裁判官 田口直樹 裁判官 武宮英子)

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